日本人はなぜか遺跡見物に

さて、昨日の続きの地方出張。地方河川に採水に来たはずの日本人は、言葉のわからないままうなずいていたら、いつの間にか遺跡見物に!ラッキー!とか言ってる場合でなく、どこに行くのかまだ良くわかってない、けど同僚の助手席で揺られること、コンポントムからしばらく、国道からそれ、赤茶色の未舗装の道路をさらにすすむ。これは森っぽくなってきたな、というころ、管理事務所っぽいものを通過したさきに駐車場が。車を降りて見渡すと、森の中に、そこらじゅう、小さなお寺がぼこぼこ建っている・・・。なんだこれ、すげえ・・・。ジブリ、ジブリだ!というティピカルな日本人の感想でうろうろ見て回るわたし。同僚はなにやらおじいさんと話をしている。おじいさんが自転車に乗って走り出し、同僚が何してんだ早く車に乗れ、という。車に乗るの・・・?

おじいさんのあとを追って、森の中にどんどん入っていくと、その道の脇にもずっと、崩れたような壁や小さなお寺の跡、そうか、おじいさんにガイドを頼んだのね。聞くと7000ヘクタールを越える土地に200を越える寺院の遺跡があるのだという(注2)。後ろからちびっこが、6世紀、7世紀!と叫んでいる。・・・?このちびっこどっから沸いて出てきた?自転車がおじいさんのとは別に三台転がっていて、少年たちはみんな腕にクロマーを抱えている。そうか、そうか、仕事か。あらゆる言語を操り知っている単語の説明を繰り広げてくれる。少年たちの言うとおり、アンコールワットより500年ほども前の遺跡なのだそうな。遺跡遺跡といってるけど、信仰の対象にいまもなっているだろうことが、形の比較的しっかりのここっているお寺に、供え物がしてあることでもわかる。

あー、酸素が濃い。アンコールワットのようには観光に人が訪れない森の中で(注2)、でも遺跡群はそれぞれが別々のいろいろを見せてくれる。タプロームにあるような木に飲み込まれた寺も、今も信仰の場所である寺(その中には観光資源としての案内看板もある)も、くっついて回っていた子供たちがいつの間にかじゃれながらかくれんぼをしているのも、すべて1400年以上も前のそれということなのだ。片腕のなかったガイドのおじいさん、あとで同僚が、彼は昔ソルジャーだったそうだよ、と教えてくれた。コンポントムへの帰り道ではアツ村を見た。そうか、ここがアツ村か(注3)、と言うことは、1990年代このあたりは密林でまだ村がなかったということか。今では、舗装はされていないものの、比較的しっかりとした道に車と観光バスとバイクとトゥクトゥクが走り、道沿いの村にホームステイして遺跡を見て回る欧米人がちらほらいる。

普段、首都で、本省で装置相手にムキー!となってるばかりだけど、外に少し出かけたらその数時間に入り込んでくる情報量は膨大で、でも静か強くて、すこしくらくらする。

夜、夕ご飯を食べに出て帰ってきてリバーサイドで、同僚が、「プノンペンより星がたくさん見えるんだぞーう!おれはこんな星座を知ってるぞー!」と酔っ払って浮かれながら教えてくれた。その隣でお酒を飲まない同僚が、今いる場所や目の前の川、ここの環境について、非常に冷静な説明をまたいろいろしてくれる。この同僚コンビは、大学からの同級生らしいが、とっても仲良しでぜんぜん似ていなくてそっくりだ。そして二人ともとっても良い人だ。環境省の同僚たちは、いつも何かいろんなことを心配している。たとえばこの国の環境に関する何か、いろいろなこと。だから私をつかまえての質問も依頼も、ひっきりなしにあるのだ。確認したいこと、知りたいこと、がたくさんあるんだ。そういう人たちが、一生懸命働いている今の職場を素敵な場所だと思う。言葉が通じないから、不満を聞かないだけかも知れない。不満までは訳さないだけかもしれない。でも私にわざわざ不満は通訳されない。今日も水汲みに乗っけてきてくれてありがとう。あ、まだ水を汲んで無いよ。今日のはつまり、フィールドワークでなくてただの観光ですよ。明日はほんとに水を汲むよ!と言うことでまた明日。

注1 遺跡の全貌は詳しく知りませんが、ガイドのおじいさんは3つに分かれた遺跡群それぞれに見つかっている寺の数など細かく説明してくれました。わたしの聞き取りが雑なだけです。すみません。観光客であふれかえりものが見えないアンコールワット遺跡群に比べ、このプレアンコール時代の遺跡群はほんとうに何の音もしない静けさの中にひっそりあるのです。
注2 国連ボランティアとして1993年、カンボジアの選挙のために尽力され、その最中、コンポントム郊外で射殺されてしまった中田厚仁さん、その人柄をしのんで村人が集まってきてできた新しい村がアツ村、ということです。田舎の小さな、おだやかな村でした。小学校と村にアツの名前が入っていました。

注3 画像、遺跡群の中でかかってきた仕事の電話に、出張の事情を一生懸命説明している同僚。カンボジア人と携帯電話と森と遺跡のコントラスト。シュールだ。すみません、仕事中に遺跡観光につれてきてもらってしまってすみません。ついでにもうひとつ謝罪、そんぼぷれっくには入るには入場料が3ドル必要らしいです。帰ってきてからガイドブックで知った。実際のところ、同僚に「外国人はだいたいこういうのお金かかるはずなんだけど」と聞いたが、「でもさっきのおじいさんに、お前が日本人だって言ったけどなんも言われなかったぞ、俺と一緒でノンペンの環境省で働いてるって言ったから大丈夫だ」と言われ終わりました。いや、そういう問題ではない。すみませんでした。次の遺跡からちゃんと払います。