チームガスマス

 Up to you!なんて素敵な言葉。これですべてを済ませています。何度か登場の若手くんは王立プノンペン大学を出たばっかりのエリート(家は金持ち、性格は穏やかで優しく気が長い、目下プライベートスクールで英語の勉強中)。私の日本での本職で一緒の学生さんとさほど変わらない年の彼が、GC/MS分析の担当者として抜擢された経緯はわからないが(注1)、知識の伝達は彼に集中的に、とボスに指示されたので、でもわたしの中では、このラボにチームガスマスを作らないと・・・とぼんやりした妄想が有るので(注1)、彼には集中的にその測定、GC/MSのコントロール全般を学んでもらおうかな、と決めた。分析の過程が長いので、スペシャリストは一人では無理だとおもうんだ。もう一人の同僚には、彼には前処理のスペシャリストになってもらおう

 そこで分厚い3冊の英語のマニュアルから特に必要なところを抜き出して、そのさらにイントロ10ページほどをクメール語に直してもらうことに。3日に1回、どうよ、調子はどうよ(注2)、とつついていたら、「とりあえず読み終えて、内容はだいたいわかって、で、これタイプするんだよね?」と言うことを聞かれた。はい、タイプするんですよ。で、ラボの全員がGC/MSの測定のメカニズムを大まかにでもわかってもらうようにするんです。でも彼が言うには、「テクニカルタームはいくつかわからないのと、もちろんクメール語にはない言葉がある」とのこと。それはそうだろう。クメール語の雑誌とかでも、たまに見るもの、翻訳できずにそのまま英語の単語とか。

「君はこのラボのGC/MSを使った化学物質測定チームのリーダー!だから君が全員に説明を出来ればそれでいいんだよ。何より、GC/MSのマニュアルをクメール語に直す、と言う作業をしているのは、この国で今君一人なんです。ほかの誰もこれまでにしたことがないんです。最先端なんです!この国ではじめての仕事なんです!(注3)だからそのテクニカルタームは、君が新しいクメール語で説明しても何の問題もないのです!すべてはUp to you!」

 私の説得がどのくらい通じたかわからないが、彼は本当に一生懸命翻訳をしてくれています。その過程できっと装置のメカニズムもかなりわかってくれるような気がする。頼むからわかってくれ。彼のボスに、彼には英語のマニュアルをクメール語にしてもらっている、と説明したら、「できるの?彼が?」みたいなことを言われたが、いやいや、あなたが彼を私に推薦したんです。彼は優秀だよ、出来ないはずがない。この辺は日本での卒業研究のスタンスと同じ。私の研究室の学生はみんな優秀だよ、出来ないはずがない。

と言い張って学生に無理を押し付けていることも往々にしてありますが、でもみんなやってくれるもん。彼もやってくれる。実際彼は本当に優秀だ。がんばれ〜。←かなり人任せ。でも応援はしてるよ!

注1 ラボの水質分析にはスペシャリストがいて、○○の測定は××の専門、というようになっています。詳細は別記します。みんなそれぞれの専門以外のところにほとんど口は出さない。GC/MSについては彼が抜擢された。でもGC/MSは全員の共通認識にしたいので、全員でやるの!をしつこく言っている。手当たり次第、ラボで捕まえた人間に説明をする。超しつこい日本人。
注2 プレッシャーは定期的にかけます。自分が追い詰められないと動かないたちなので。でもこっちの人がどうかはわかんないなあ。画像は測定トレーニング中の彼。
注3 実際のところメーカの違う類似機能のGC/MSは、王立プノンペン大学の化学科にも一台存在するので、そちらで同じ作業をしたことがある先生がいるかどうか、は私の知るところではない。この際気にしないことにする。