溶媒が到着するよー

 私がここに到着したのは3月のおわり。深夜の到着、その翌朝、なんやふつーに環境省のラボに出勤してみた。みんな、おはよー、とか言うけどあまり気にしない。なんだこの日常感は。日本から荷物とどいてんぞー、といわれ、おおそうだ、それを整理しないとね、と実験器具を開き始めたところに登場するディピューティーディレクター。「ディレクターの部屋で業者(注1)と溶媒購入の話をしているからすぐに来てくれ」

はい行きますよ。まだ英語もまともに聞き取れないけど、到着して30分だけど、呼ばれる事情も良くわかってないけど、というか何で私が居るって知ってるんだろうとか、これから挨拶に行こうと思ってたのに、とか、そういう疑問や私の意向は全部そっちのけで行きますよ。だって溶媒大切。それがないとなんにも仕事できないもの。そんな事情でアセトンとか、ヘキサンとか、ジクロロメタンとか酢酸エチルとか注文する相談に同席してから数週間。クメール正月明けのころ、同僚が、「ディレクターが昨日来て、溶媒が業者からこちらに入るのに4週間以内だって」と私に言った。

・・・4週間ですと!?いまもう4月は終わりに差し掛かってますよ。ここからあの休日の大量にある5月(注2)を4週間と言ったら、5月も終わっちゃうよ!?その間GC/MSはチューニングとマス校正だけかい?前処理はろ過確認だけかい?どうすんだ!!と、ふんぎゃー!となっていたら、それを見た同僚がなんか元気良く出かけようとしている。「わかった!日本人怒ってるってディレクターに言ってくる!」

!!うぉーい、まてまてまてまて。元気よく出かけるな。怒ってない、怒ってないし何よりディレクターには怒ってない。私の到着の日の午後には業者に発注かけてくれたの、私知ってるし。問題は業者だ!発注品が全部そろわないと納入しない、とか言ってるんでしょ!そこをつつけ!業者に届いたものからもってこい、毎日でも持って来てくれ、って言ってくれ、と頼む。すると「ガスはもう入ってるらしいよ。もってこいって言う?」とか。ファイブナイン(99.999%)のヘリウムと窒素、頼んだっけね。一番最後でよいものは届いてるんですね・・・。業者へはベトナムとタイから荷物が運ばれてくるのです。

カンボジア人、不思議なところで、なんか全部そろわないときっちりきっちりしないと納入しない、みたいなところがある気がする。日本だと学校から業者への発注品は届いたものからちょこちょこ持ってきてくれるんだけどなあ、そう思ってた。そんなやり取りから数日、突然業者がやってきて、ぞろぞろと荷物が届いた、溶媒、ガス、運び込まれて、Commercial invoiceを渡されて、そしてわかった。業者が納入を一度で済ませたい理由が。こちらのインボイス、相当細かいのです。溶媒にしても、グレードだけじゃなくロットが変わったら全部別記載(注3)発注者からのルートで納入品確認者までのすべてでサインサインサイン・・・うん、これは一度で済ませたくなる気持ちがちょっとわかる。わかった。ごめん。残り四つはまだ届かないので後日、と言われた。

そんなこんなで、研究室に溶媒が到着しました。滞在から一ヶ月、溶媒到着。私としては超高速です。十分なスピードです。だって、全部輸入品だし。同僚に、これで実験できるぞ!がんばるよ!と言うが、おう!でも暑いよね!と言う返事が返ってきた。オイコラ、いきなりやる気の腰を折るんじゃない。

注1 ここで業者とは日本でなら試薬とか実験機器の代理店ですが、この国では輸入業者もかねています。溶媒、試薬類は基本的にタイ、ベトナムを経由したヨーロッパなどからの輸入です。私にwakoとかcicaとかjunseiの溶媒をください。何とかしてよ、日本メーカー。
注2 5月は日本でもゴールデンウイークとか休日多いですが、こちらも多い。全部で14日休み。でもまあ、暑いからな・・・←カンボジア人化。
注3 もしかしたら日本でも同じ仕組みかもしれないけど、伝票は一度で済ませてサインはしちゃって後入れのものありますよ、みたいな信用商売が普通になっているのであんまり気づいてない。こちらの書類、納入日違えば本当に全部作り直しなんです。