科学者のジョーク

 同僚が持ち込まれた水のサンプルを分析するのに、金属分析にてこずっている。本来ICP-MSで測定しちゃいたいのだがICP-MSがうまく動いていないので(あからさまに故障中)、試薬を入れてセットして待って、というキットでの測定をしているのだ。その測定に使う標準液の減りが早くてどうにもならんので何とかしなければ、と相談に来た。話を聞くと、どうやらサンプルの濃度が高く、何度も標準液の追加をしないと測定できないらしい。じゃあ元のサンプルを希釈すればいいじゃん、といったら、!!そうだよね!と喜んでくれたが、でもでも、2つの指標を一緒に測っていて(キットのデフォルトの設定)それぞれの濃度がかなり違う、という。二段希釈しても今より標準液の利用量はすくなくなるんだないか、ということになったのだが、さて、何で希釈する・・・?と。

ラボで使っている蒸留水製造装置、そもそもICPでの測定には購入した標準と水を使っているのだし、ほかにも確かに今測っている指標には問題ないんだろうけど、希釈水に使うには現状の蒸留水では確かに厳しいかも・・・とりあえず測ってみようか、蒸留水を、ということになった。で、測ってみたはいいんだけども・・・でたでた、希釈には使えない濃度で、しかもカンボジアの水道基準にも引っかかりそうな濃度で金属元素が検出されている。
カンボジアの水道水は、浄水場を出てくるタイミングではかなり状態がよいらしい。配水される前の状態では日本と同じくそのまま飲めるという話も聞く。ただし問題は配水管、タンクなどなどだ。蛇口から出てくる水は、浄水場から配られる水と当然同じではないんだから、それから現状の装置で純水を作っても、どうにかなる部分とならない部分が当然ある。

さて、上記の測定をしていた同僚、ええー!おれ水道水はそのまま飲んでなかったけど、蒸留水はたまに飲んじゃってたよ!とやいやい言っている。それは・・・測定してみちゃって残念だったね。でもとりあえず水道水も蒸留水も測れるものは測ってみようよ、というわたしの言葉を聞くどころでなくほかの同僚にその情報を伝えに行く彼。そしてこの会話。「この蒸留水○○が結構たくさん入ってるよ!」「・・・・おお、そりゃ大変だ!その水100年飲んだら死ぬな!」
・・・しばし無言、その後爆笑。そりゃそうだろう、100年飲んだら日本の水道水でも死ぬよ。カンボジアの平均寿命は63歳、日本の平均寿命は83歳だ。それにもちろんこの差は水道水のせいではない。

この手のジョークはどこにでもあるんだな(注2)、と感心したり笑ったりしている場合ではなく、問題は目の前の蒸留水と金属分析。ペットボトルとか20Lタンクの水がどんな状態かとりあえず測って、使えそうなもの探そうかね、ということでひとまず落ち着いた。にしても、環境省には超純水製造装置もあるのだが環境省の建物が移転してから・・・という名目でまだ動かない、動かしていない。水と一口にいってもそれはいろいろで、水から水を作るというのもなかなか大変で。はやいとこICP-MSなおらんかな。

注1 純水製造装置。こいつもがんばってるんだけど、なにかとトラブルが起こる。しょっちゅう壊れてエンジニア師匠が修理にあたったりしてるし。聞くと、原水(つまり水道水)に懸濁態(というかあからさまな浮遊物質)がありすぎてさあ!という。それは水道水なの・・・?配管から何かはがれてきてやしないかい・・・?心当たりとしてはタンクらしい。
注2 この後にも、分析データのチェックをしていた時に、月別データでおそらくコピペミスか上書き保存でそっくり同じ値になってしまっている案件を見つけ、上記とはべつの同僚に、「ここおかしいよ」といったら、「おおすごい、○○地点の水質はものすごくステイブルだね!」というのをかまされた。そんな冗談はいいから早く直せー!カンボジア人はこんなジョークが大好きか。私がキシャー!と怒ったら、はいはい、わかってるよ、といわれた。