姉さん出来ました!

 言葉の違う国で自分がこれまでやってきてスキルとして持っているものを伝えるに、まずどうするべきか、と言うことを考える。たとえば日本で、大学の研究室に配属になり、こういう実験をしてください、と教授や先輩から指示されたら指示された人間はどうするか、まず、言われた実験の方法について調べるでしょう。何語で?当然日本語で。日本にはその実験をうまく行うためのマニュアルが公式に提示されていたり、インターネットを少しのぞいても先人の知恵がたっぷりある。じゃあ、これと同じ方法で、こちらで教えるのにまず、英語でマニュアル的なものを作らなければいけないのだろう、と一昨日まで思っていました。

でも昨日の朝起きて、職場に来て、一段落ついたから英語のマニュアル、日本のマニュアルを元に作るか、とデスクに向かい、そこになって急に、果たしてこれに意味があるのかと。既存のマニュアルを自分で調べてまとめて実験系を組み立ててやってみてください、と日本で言うのは簡単だが、同じことを英語でやってくださいと言ってもまず無理だ。だからって、私が日本語のマニュアルを英語に訳して、訳しただけでは足りない分を追加して書いてさらにそれを使って説明をするのは本当に手っ取り早いやり方か、読んでくれと渡した本にくいつくように読んでくれるんならそんな簡単な話はないよなー。だから否、そんなはずはない、そもそも私は日本語マニュアルの英訳など全然したくない(おもしろくないから)←本音、と言う具合にあたまの中が片付いたところで、英訳をPCに向かってやることを一切やめることにした。で、どんな方法をとったかと言うと、下記のようなことに。

若手くんに裏紙用紙の束を渡す → 分析方法をマニュアルを元にこれから説明するからね、全部書き取って自分でわかるように!わからないときはその場で瞬時に聞いてくれ、という説明をする → サンプリングに使う道具、その準備、サンプリングの際の注意、サンプリングの方法、運搬方法、分析までの保存方法、分析の各ステップ、それぞれで使う道具と必要個数、その前処理、機器分析前までの処理、そのすべての過程を口頭の説明で済ます → 若手くんがひたすら説明を聞きながら私の説明を英語でメモする、わからないところは何度も説明する、英語を記録するスピードがしゃべるより当然遅いので(それでも若手くんの裏紙メモは5-6ページには渡っていた)、書いてあることの10倍くらいをしゃべっていることになる → その分聞いている側の受け取る情報量が増える → ただし若手くんの確認や質問もやたらくそ多いので上記の過程の説明に丸一日を要する

そして終わったところで、なんだかとっても疲れたような気がするよ・・・?というのんびりな感想をもらす若手くんに、よし、じゃ忘れないうちに今日のメモを英語でタイプしよう!それがそのままこのラボのマニュアルになるよ!と伝える。若手くんは2日後から1週間海外研修なので、その前に打たないと忘れちゃうと思うよ!海外研修から帰ってきたらそのマニュアルで実験するよ!とせかすと、「ええー、わかったー、今日家に帰ってからやる」と言う。その言葉通り、22:20付けでドキュメントファイル添付のメールが送られてきた。マニュアルのドラフト出来ました!いくらか間違っているところもあるかもしれないのでチェックしてください、という、でも今日説明した範囲としては完璧な内容のマニュアル。この若者は・・・本当に出来る若者なんだな(笑 1)。わたしは夜寝るのはやいので、22:20すでに寝てました。メールを朝受け取りました。すごいのはさらに、「私(日本人)は参加しないけど省の所属の課全体のミーティングがあって、自分(若者)は8時から行かなければならないので英文のタイプを手渡しする時間が無いかもしれない、だからメールで送っておいた」と言うところ。なんだその気の利きようは。君はほんとにカンボジア人か。メールタイトルはanalytic method reviewだったが、朝いちにそのメールを発見したときに、姉さん出来ました!という若者のえっへん顔が見えたぜ。

そんなわけで、私のめんどくさがりによりたぶん自分でやったら5日くらいはかかるだろう日本語マニュアル英語訳+それを使った分析方法説明、が1日で出来た。めんどくさがりも悪くない。それに自分で聞き取ってまとめたマニュアルというのは何より一番わかりやすいのだ(経験上)。私が英語のマニュアルを作ったところで、こちらの人の頭には入らない、読まなくちゃ、まとめ直さなきゃ。今回はめんどくさがりに端を発したが、その一番頭に入りやすい方法になった、というところで、結果オーライ。次は実践!

笑 1 だってよんで見たらこのマニュアル、ほんとわかりやすい。元のマニュアルでは「振盪抽出を行いヘキサン層をナスフラスコに採取する」と書いてある。まあやったことある人ならこれで十分だろうな。でも初めての人は出来ないよ。でも若手くんのマニュアルなら大丈夫!「分液フラスコを15分振盪すると、あなたには2層の液体が見えるでしょう。下は水とアセトンの混ざった層であり、上はヘキサンにアセトンの少し混ざった層です。下の水の層をサンプル採取ボトルに出し、上のヘキサンの層だけをなすフラスコに移します」・・・できるよね。これはさすがに出来るよね、マニュアル読めば。ただしこのマニュアルは長くなるな・・・。

そして画像はほんとになんの関係もなくアンコールワット遺跡群アンコールトムよりバイヨン寺院の顔。若手くんのイメージ画像とか言うことではありません。穏やかな笑顔は似ている。