ひっぱれー!

実験で使うのでキャピラリーが必要になった。ここでキャピラリーとは沸石代わりにつかうそれのことです。ここで沸石(注1)とは・・・とやっているときりが無いのでそれぞれは調べてもらうかはてなの辞書にでもお任せして、簡単に言うとガラスを溶かしてひっぱってのばした細い管が必要になったわけだ。で、ラボで、ガスバーナーは?と聞くと、ガスバーナーは出てきたがガスがない、と言われた。ガスがなければガスバーナーはつきません!というかこのバーナーはガラス細工に向く温度かな?と思い、とりあえずかわりに何かないか、と頭を巡らす。

プノンペンには道ばたにガスバーナーでパンク修理をしている人々がたっぷりいるじゃないか!と、そこではどうだと同僚に相談するも、そもそも同僚がなぜ私がガラスを引っ張りたがっているのかを理解していないので説明がものすごく大変だ。とにかくこのガラスを溶かしたいの!そして引っ張りたいの!と訳のわからん説明をしながら、一つ思い当たった。わたしが毎日の食材調達をする小さな市場は、美容室もテーラーも米屋も八百屋も魚屋も衣料品も薬も雑貨も一通り何でもそろう市場。その一角に指輪など貴金属修理、加工の店があったんだよね。あそこでは金属加工をしているんだから、相当の温度のバーナーがあるはずだ、と同僚を丸め込み市場に向かう。

市場で英語は通じない。実際私が原料として持っていたパスツールピペット(注2)もこれはプラスチックか?ガラスか?位の英語しか通じない。でも同僚がこのガラスをのばしたいの!引っ張りたいの!というわたしの説明をそのまま説明してくれる。同僚もわかってないはずなのにありがとうよ・・・。おじさんたちも金属加工職人だから、「ガラスなんか無理だーって。こわれちゃうよ。溶けないよ!割れるよ!」とぜんぜんわたしの引っ張らせろ!を聞いてくれない。

いい加減あきらめようか、ガスボンベ買うか、と思ったとき、同僚が、パスツールの端と端をもち、いいからこの真ん中にバーナーの火を当てろ!と言ってくれたようで、おじさんがバーナーに火をつけた!ガラスが赤くなるのを見計らって、それ!いま!ひっぱってーー!とにょいーーんとがらすをのばす。間違いなく初めてガラスを引っ張ったはずの同僚は相当がんばってくれた。綺麗にキャピラリー管ができた・・・。

小躍りで喜ぶ私をみて、おやじが、おおー、と言い、もう一本も伸ばすか?と聞いてくれた。私が両端を持ったら、「おまえはだめだ、こっちの人が持て」と同僚が代わる。火が危ないからと私にはガラスを持たせてもらえなかった。あのね、でもね、私の方が引っ張るのうまいはずなんだけど・・・・しょうが無い、おじさんがバーナーを当ててくれなければしょうが無い。わたしの役目は、ひっぱれーー!のかけ声のみ。朝から働いていた市場の人たち、仕事もそろそろ終わろうかという午後4時過ぎの市場、真剣な顔でガラスを持つ同僚と火を当てるおじさん、妙なかけ声をかける日本人に、それを眺めながらビール(なぜかスタウト。高いじゃん!)を飲むもう店じまいした隣の店のオヤジ。カオスだ、なんかカオスな市場だ。でもこれでまた明日から安全に実験が出来ます。

謎のガラス片をもって職場に帰る私があんまりにこにこしていたせいか、道ですれ違う知らないおばさんとか客待ちのバイクタクシーのドライバーとかが、それなに?ってすごい聞いてきた。ただのガラスです!

注1 沸石は小学校の理科の実験でも使うのでわかる人もいると思いますが、突沸を防ぐために加熱する液体の中に入れておく石(といってもガラスだったりゼオライトだったりテフロンだったりいろいろ)です。沸石は?と聞いたらラボで見たことがない、と言われたのだが、一般水質試験に沸石を使うものってなかったっけ。そうだっけ。
注2 パスツールピペットは・・・なんと説明すれば。ガラスのピペットで先がかなり細く管になっているものです。スポイトみたいなもの。画像は指輪加工修理屋のお兄さんたち。いい仕事してます!