カンボジアお料理教室

というかまず、料理のまえに食材紹介から。だって、すごく不思議に思っていることがあるのです。
写真の食材、緑の草ですが、これは日本で「空芯菜(空心菜)」と呼ばれるそれです。どちらをクウシンサイと認識しているかはそれぞれと思いますが、たぶん左の少ししゅっとしたほうが日本では多いような気がします。名前もクウシンサイのほか「エンサイ」「ヨウサイ」「モーニンググローリー」いろいろ呼ばれますが、カルシウム、ビタミン、鉄分など豊富な万能野菜、特に炒めるととってもおいしい!ですね。クウシンサイ炒めは中華のほか、東南アジアでは定番の料理です。

さて、カンボジアではこのクウシンサイ、名前を「とろくおん」といいます。クウシンサイ炒めは「ちゃーとろくおん」、どこでも食べられます。炒めのほかは、スープに入れられることも多いです。牛肉と香辛料とスープにしたり、カレーに入ってたり、ああ、わたしの好きなパパイヤサラダには生で入っている。まあとにかく万能野菜ってことです。
水環境とか仕事の目からみると、クウシンサイはいろいろ吸収能力が強く、塩分の強い土地で塩分除去に用いる、とか、栄養塩(窒素とかリン酸とか)をたくさん吸う上に成長が早いということで富栄養化対策に用いられてみたり、となにかとうわさを聞く野菜です。プノンペン近郊でも家庭から出た栄養塩たっぷりの排水を湿地帯に植えられたクウシンサイが吸ってすくすく大きくなり市場から食卓に戻ってくる、という栄養のサイクルがあります。ただし難点は暖かい場所でしか育たないこと。日本では8月の盛夏に育ちますのでこれからでも庭で試してください。

さて、写真に戻って、写真にある2つの草は明らかに見た目が違う、これは普通に考えれば違う野菜だろう?と思いませんか?わたしは違う野菜だと思っていました。しかも右をクウシンサイだと思っていました。市場で見ても売られているときから明らかにこの二つは違うのです。左は葉っぱつきで根っこもついたまま売られていて、買うときにおばちゃんに「根っこどうする?切る?」と聞かれるのでお願いしたりするんです。右のちょっとごついほうは、はじめから根っこは無く、葉っぱも無い茎だけの状態で売られていることもおおい。茎が人気なので茎だけの方が値段も高かったりします(注1)。
で、わたしが右をクウシンサイと思っていたのは、私がクウシンサイをスープでばっかり食べていたから。代表的なクメール料理の「まちゅーくるーんさいっこー」は牛肉とクウシンサイを「くるーん」と呼ばれる香辛料で味付けしたスープ料理です。最高にうまい。この料理に使われるクウシンサイは右側のものなんです。ごつくてもスープに入れたらちょうどいいから。一方で一般的なクウシンサイ炒めに使われるものは左の細くてしゅっとしたやつ。すぐに火が通るから。

・・・そこで疑問。ぜんぜん違う野菜にみえるんだけど、どういうこと?で、市場で名前を聞く。この野菜は?「とろくおん」じゃあこっちは?「とろくおん」
・・・同じなの?名前が変わらないの?まったく同じに見えないのに、聞くと育ち方もぜんぜん違うというのに、同じ名前でいいの!?成長に合わせて魚の名前変えちゃう日本人もどうかと思うけど、とろくおんはこの国で一番といっていいほどポピュラーな野菜じゃないのか!その名前が二つ同じでいいのか!ともんもんとする日本人のまえでおばちゃんはニコニコしている。「どっちがいるの?」「・・・両方ください」

察しのよい方はお気づきかと思いますが、おんなじ名前でいいのかーー!を書きたいがために膨大な量のクウシンサイを買ってしまったので、わたしのうちではしばらくクウシンサイ祭りです。いいの、おいしいから(注2)。

注1 こちらでの買い物は基本的に重さでいくら、なので、葉っぱがついてればそれだけ重いだろうに、クウシンサイは茎の重さ勝負なところがあるような気がします。葉っぱつきのクウシンサイを買ったとき、値段がうまく聞き取れずに最後が5、ということしかわからず、「この間茎だけのが1000Rだったから葉っぱ付きの1500Rだろ」と思い1500R出したら、「ちがうよ500Rだよ」とおばちゃんに1000R戻される、ということがありました。

注2 クウシンサイはヒルガオ科、サツマイモ属の植物ですが、右側の葉っぱは本当にサツマイモのそれに似ている。私がクウシンサイ炒めを懐かしいと思った理由は子供のころよく食べていたサツマイモの葉っぱの味、それに違いないと思った。サツマイモの葉っぱは親にムリに食わされていたわけでなく、一度親が戦後の記憶!的な料理で作ったものを私が気に入ってしまい、畑でつんでは食べたいと親にせがんだからです。変なもんが好きだねー、といわれながら食べてました。